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東京地方裁判所 平成8年(ワ)10213号 判決

原告

内田守

ほか二名

被告

矢頭将

主文

一  被告は、原告内田守に対し、金一〇〇九万九五四二円及びこれに対する平成七年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告内田守のその余の請求並びに原告内田秀子及び原告内田波江の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告内田守に対し、金三八一五万円、原告内田秀子に対し金八〇八万円、原告内田波江に対し金六一〇万円及び右各金員に対する平成七年一月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払い。

第二事案の概要

本件は、交通事故により負傷した被害者とその家族が、加害者に対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下、「本件事故」という。)の発生

原告内田守(以下、「原告守」という。)は、次の交通事故により頸椎捻挫の傷害を受けた。

(一) 日時 平成七年一月一一日 午後五時五〇分ころ

(二) 場所 千葉県松戸市稔台二一八番地先路上

(三) 事故態様 被告運転の普通乗用自動車が、赤信号で停止中の原告守運転の普通貨物自動車に追突した。

2  責任原因

(一) 被告は、加害車両である普通乗用自動車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであり、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

(二) 被告は、前方不注視の過失により本件事故を生じさせたものであり、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

二  争点(損害額)

1  原告らの主張

原告守は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、事故直後に救急車で病院に運ばれたが、いったん帰宅し、平成七年一月一三日から同月二八日までの一六日間日本医科大学付属病院に入院し、退院後同病院の麻酔科と耳鼻科、及び昭愛会水野病院(整形外科)の三か所に平成八年一月末までの間実通院日数二七三日通院し、これによって原告らは次のとおりの損害を被った。

(一) 逸失利益(原告三名)

原告守は、観賞魚用水槽類の卸売業を営む株式会社ウチダを経営しているが、同社の実態は個人商店であり、主な働き手は原告守と妻の原告内田秀子(以下、「原告秀子」という。)の二人であり、守の母である原告内田波江(以下、「原告波江」という。)が電話番等の軽作業を担当し、アルバイトを雇うことはあっても常勤の従業員はいない。ところが、最大の働き手であった原告守が本件事故により全く仕事ができなくなり、会社の売り上げが大幅に落ち込み、原告らに対する役員報酬を捻出することができなくなり、平成五年と比較すると平成七年は、次のとおり所得が減少した。なお、平成六年と比較しないのは、原告守は平成六年四月一八日にも本件事故と同様な追突事故(以下、「前回事故」という。)にあって平成六年は万全の状態ではなかったからである。

平成八年には、原告守の体調が前年よりも回復したが、一年間休業したことによって、顧客を喪失してしまい、売り上げが更に減少し、これによって、次のとおり原告らの所得が減少した。

平成九年以降は、この程度にとどまるものではなく、その倍となろうが、次の限度で請求する。なお、他の損害項目の一部が棄却になったときは、棄却された額を平成九年以降分の逸失利益に追加して請求する。

ところで、原告秀子又は原告波江の役員報酬については実質的に原告守の所得と認定される可能性があるが、その場合は、同原告らの逸失利益として主張した金額を、原告守の本訴請求額金三八一五万円の範囲内で予備的に原告守の逸失利益として請求する。

(1) 原告守

〈1〉 平成七年分 金一一四〇万円

〈2〉 平成八年分 金一一四〇万円

〈3〉 平成九年以降 金六〇五万一四一七円

(2) 原告秀子

〈1〉 平成七年分 金二九〇万円

〈2〉 平成八年分 金三〇〇万円

〈3〉 平成九年以降 金一四五万円

(3) 原告内田波江

〈1〉 平成七年分 金二一〇万円

〈2〉 平成八年分 金二四〇万円

〈3〉 平成九年以降 金一〇五万円

(二) 病室代(原告守) 金五三万六〇〇〇円

原告守は、入院中も商売継続のため、取引先との電話連絡の必要があり、電話のついた個室に入院することが必要不可欠であった。

(三) 慰謝料(原告守)

(1) 入通院慰謝料 金一六〇万円

(2) 後遺障害慰謝料 金二七〇万円

原告守は、平成八年一月末をもって通院治療を打ち切ったが、めまい、吐き気、息苦しさ、肩の張りなどの後遺障害が残り、これらは後遺障害等級一二級に該当するから、これによる原告守の精神的苦痛を慰謝するには右金額が相当である。

(3) 特別の慰謝料 金一〇〇万円

被告は、本件事故の翌日にメロンを持って挨拶に来た以外は、見舞いに来たことはないのに、本件事故から九日後の平成七年一月二〇日付けで、個室の使用料は支払えないとの被告代理人千葉博名義の内容証明郵便を送り付けるという非礼な行為に出た。これによる原告守の精神的苦痛を慰謝するには右金額が相当である。

(四) 弁護士費用(原告三名)

(1) 原告守 金三四六万二五八三円

(2) 原告秀子 金七三万円

(3) 原告内田波江 金五五万円

2  被告の認否及び反論

(一) 原告守の入通院の事実は認め、その余は争う。

(二) 本件事故による原告守の負傷は、他覚所見のない頸椎捻挫であり、本件事故と因果関係の認められる治療期間は長くても事故後六か月にとどまる。原告守には長期の休業の必要性は認められず、休業は心因的要素等によるものであり、また、会社の業績の悪化には景気の影響などの他の要因も考えられ、原告らの所得減少と本件事故との因果関係は存しない。また、所得の減少には前回事故の影響も考えられる。

(三) 原告秀子及び原告波江の損害は、本件事故とは反射的・間接的なものにとどまり、本件事故との相当因果関係は認めがたい。

(四) 個室使用の必要性は認められない。

(五) 原告守の後遺障害とされるものは自覚症状のみで、客観的裏付け資料はないから、これによる損害は本件事故による損害として認められない。

第三争点に対する判断

一  逸失利益(原告三名)

1  原告守の治療状況

証拠(甲三、八、一三ないし一六、三五ないし三七、乙一ないし九、証人山口眞人、原告守)によれば、前回事故及び本件事故後の原告守の治療状況は、次のとおりと認められる。

(一) 原告守は、本件事故の前年である平成六年四月一八日に本件事故と同様の追突事故に遭い、半年間遠藤整形外科に通院した後、同年一〇月二八日に、日本医科大学付属病院で首から項部の痛み、肩こり、しびれ、めまい等を訴えて受診し、同日から本件事故の直前まで通院して左側星状神経節ブロック等の治療を受けた。同原告の症状は、同年末ころまでにはかなり軽減していたが、同原告は、平成七年一月六日、年末年始にかけて両側肩こりひどく嘔気を催したとして、左側星状神経節ブロックに加えて、右側に対してもトリガーポイント注射等の治療を受けた。

(二) 原告守は、本件事故の後、救急車で恩田病院に運ばれ、診察を受けたが、一旦帰宅し、平成七年一月一三日に日本医科大学付属病院で受診し、両側側頸部痛、後頸部痛、ふらつき等を訴え、同日入院した。入院後、装具装着、左右の星状神経節ブロック、頸部傍脊椎神経ブロック、投薬(筋弛緩、抗不安薬等)の治療を受け、症状が軽減し、同月二八日退院した。

(三) 入院時のX線撮影の所見によれば、第六、第七頸椎間に加齢変化によると思われる変形あり、前回事故及び本件事故との因果関係はないが、こういう変化のある人は長びくと診断されている。

(四) 原告守は、退院後から平成八年一月三一日までの間(実通院日数八七日)日本医科大学付属病院麻酔科に通院し、同原告は、両上肢のしびれ、項部のつっぱり感、めまい、ふらつき、インポテンツなどを訴え、トリガーポイント注射、星状神経節ブロック、レーザー治療を受けた。その間、主に平成七年五月九日から同年六月二日までの間(実通院日数四日)、めまいにより、同病院耳鼻科を受診したが、神経耳科学的には特に異常を認めず、交通事故との因果関係は不明と診断された。

(五) 原告守は、日本医科大学付属病院の通院加療と並行して、平成七年四月一一日肩こり、めまい、嘔気を訴え、水野病院整形外科を受診し、同日から平成八年一月三〇日までの間(実通院日数一八一日)、牽引、ホットパックの治療を受けた。同病院で行われた同年四月二五日のMRIの所見では、第四、第五頸椎に変形が認められたが、ごく小さなもので交通事故との因果関係は不明と診断された。

2  原告守の後遺障害

前掲各証拠によれば、原告守は、平成八年一月末ころに治療を打ち切ったが、治療の過程で症状は軽減したものの、依然としてめまい、嘔気、息苦しさ、肩の張り等の自覚症状を訴えていたことが認められる。しかし、前掲各証拠によれば、同原告の症状については、その治療中から他覚的所見に乏しかったものであり、右治療打ち切り時においても、自覚症状を裏付けるような特段の他覚所見は診断されていないことが認められるから、少なくとも、原告守において自賠法施行令二条別表に該当するような後遺障害が残存したとは認められない。

3  株式会社ウチダの損益の推移等

証拠(甲九、一〇、一九、二〇ないし二三の各1ないし5、二四及び二五の各1ないし4、二六の1ないし3、二七、二八、三二の1ないし5、三三、三四、三七、三八、三九の1ないし5、四〇、四一、原告守)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告守は、昭和五〇年ころ水槽類の卸販売を始め、同事業を主たる目的として平成四年三月に株式会社ウチダを設立して代表取締役に就任し、妻である原告秀子、母である原告波江をそれぞれ取締役、監査役とし、それぞれ補助的な業務に従事させたが、実質的には、原告守が中心となって仕入れ、販売、荷物の運搬等の仕事を担当し、同社は原告守の個人事業と同様であった。

(二) 株式会社ウチダの各年度(営業年度は暦年と同じ)の決算報告書によると、同社の純売上高の推移は次のとおりである(ただし、平成四年度は三月三日から一二月三一日まで。以下も同様。)。

平成四年 一億八八九万五三五七円

平成五年 一億一七六一万二三八九円

平成六年 一億九〇一万三四一六円

平成七年 五六九〇万四六二七円

平成八年 四七九三万八〇九七円

平成九年 二五二〇万八六四八円

(三) この純売上高から売上原価並びに販売費及び一般管理費(役員報酬を除く。)を控除した額が、同社の実質的な損益を現すものとして、同様に決算報告書によって、その推移をみると、次のとおりである。

平成四年 一三一二万四九七一円

平成五年 一六二二万〇一二五円

平成六年 八一四万六一七五円

平成七年 八九万八〇九〇円

平成八年 一三五万二四七一円

平成九年 △一七八万七七九二円

(四) 原告らの各自の役員報酬の推移は次のとおりである。

原告守

原告秀子

原告波江

三名合計

平成四年

八四〇万円

四八〇万円

二四〇万円

一五六〇万円(注)

平成五年

一一四〇万円

六〇〇万円

二四〇万円

一九八〇万円

平成六年

七四〇万円

三八〇万円

一九〇万円

一三一〇万円

平成七年

〇万円

三一〇万円

三〇万円

三四〇万円

平成八年

〇万円

三〇〇万円

〇万円

三〇〇万円

平成九年

〇万円

三〇〇万円

〇万円

三〇〇万円

(注) 平成四年度の役員報酬は、決算報告書(甲二〇の4)では合計一四六〇万円となっているが、確定申告書及び源泉徴収票(甲二四ないし二六の各1)では合計一五六〇万円となり、齟齬がある。

4  本件事故と原告らの所得減との因果関係

そこで、以上の事実関係を前提として、本件事故と原告らの所得減との因果関係について検討する。

(一) まず、原告守の前回事故の影響について判断するに、前回事故による事故後の半年間の通院治療の状況については診療録等の証拠がなく、はっきりしない部分があるが、平成六年一〇月二八日以降の日本医科大学付属病院での治療の経過はかなり良好であり、この約九か月前の前回事故が、本件事故後の原告の症状に大きな影響があったとは窺えない。もっとも、原告守は、本件事故の直前にも、両側肩こりがひどく嘔気を催したとして、左側星状神経節ブロックに加えて、右側に対してもトリガーポイント注射等の治療を受けたとの事情に照らすと、前回事故による症状は完全に治癒していたといえるかは疑問であり、本件事故後の原告守の症状に全く影響していないとはいえない。

(二) 次に、本件事故後の原告守の症状と就労制限について検討する。

前記1及び2認定のとおり、本件事故後の原告守の症状は、他覚所見に乏しい不定愁訴であり、前記1掲記の各証拠によれば、その訴えの内容からもかなり精神的な要素が影響していることが窺える。そこで、このような症状による原告守の就労への影響について検討すると、前記1掲記の各証拠によれば、〈1〉日本医科大学付属病院の医師から平成七年二月末ないし三月ころの時点で積極的に日常生活を進めるよう指示されていること、〈2〉同年六月一四日の時点で約二か月の加療を要する見込みと診断されていること、〈3〉日本医科大学付属病院の診察において同年九月以降は、基本的な症状にあまり変化はないものの、ときに調子がよいなどと訴え、自覚症状は緩和される傾向にあったことなどの事実が認められ、これらに合わせて前記1及び2認定の各事実を総合すると、客観的に見る限り、原告守の就労にある程度の影響があったと見えるのは、平成七年八月ころまでの間にとどまるというべきである。

ところで、原告守は、その本人尋問において、平成七年三月ころから医師の指示に従って株式会社ウチダの外回り以外の仕事に従事したが、思うように働けず、平成八年一一月から原告秀子の運転で外回りに出て、一人で出かけられるようになったのは、平成九年九月ころからであるなどと供述する。たしかに、株式会社ウチダの収支の推移をみると、平成六年度に比べて平成七年度の利益がかなり落ち込んだのみならず、平成八年度に至っても収益はあまり改善せず、かえって平成九年度は平成七年度よりも落ち込んでいることは前記のとおりである。この点、原告守はその休業中に取引先を他の業者に奪われたと供述しているが、そのこと自体はあり得ることであろうが、原告がある程度働くことができるようになった平成九年度において逆に利益が落ち込んでいることに照らすと、むしろ、景気変動や経営上の問題など他の要因が影響している疑いを払拭できない。

以上の検討結果に照らすと、客観的に見る限り、少なくとも原告守が治療を打ち切った平成八年二月以降については、原告がいうような長期の就労制限が必要であったとは考えられず、右以降については本件事故との因果関係があるか疑わしいというほかない。

以上を総合すると、本件事故による傷害及びその治療により、平成七年八月ころまでは、原告守の就労にある程度の影響があったことが認められるが、その後、影響は次第に緩和され、平成八年二月以降については、就労への影響を認めるに足りる証拠がないというべきである。したがって、本件事故後一年間の減収(平成七年度の減収額がほぼこれに相当すると認める。)を基礎として、逸失利益を検討すべきであるが、前回事故の影響が残っていること、減収について他の要因の影響のある疑いがあること、本件事故後一年間についても右に述べた限度で就労への影響が認められるにとどまることなどを考え合わせると、平成七年度の減収分の七割に相当する金額が本件事故と相当因果関係のある逸失利益と認めることができ、それを超える減収への寄与についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) さらに、逸失利益の基礎となる収入額について検討する。

株式会社ウチダは、前記のとおり、実質的には原告守の個人事業と同視できるものというべきであるから、逸失利益の判断においても、これを個々の原告の役員報酬に分解して判断するのは相当でなく、同社の純売上高から売上原価並びに販売費及び一般管理費(役員報酬を除く。)を控除した額が、実質的に原告守の所得を示すものとして計算するのが妥当である。もっとも、原告秀子や同波江はそれぞれ事務などの補助作業に従事しているから、その中には同原告らの労働対価部分も少しは含まれているはずであるが、こうした労働対価分は本来原告守の休業によっては影響を受けないはずであり、影響を受けている部分は原告守と生活を一体にしている結果としてのものにほかならないと解されるから、全体として減収分を原告守の逸失利益として把握するのが合理的である。

ところで、本件事故の前年である平成六年度の収益については、原告らは、前回事故の影響があるためこれを基礎とするのは妥当でなく、平成五年度を基準とすべきであると主張する。前回事故による負傷の程度と事故後半年間の治療経過については、明確に認定するだけの証拠がないが、原告守は本人尋問において前回事故では休業していないと供述していること、前記1掲記の各証拠によれば、少なくとも日本医科大学付属病院に通院するようになった平成六年一〇月二八日以降はそれほど強い訴えがされていないことが認められることなどに照らすと、前回事故による影響はそれほど大きいものではないと思われるが、八か月以上も通院していることから見て、若干は影響があったものと思われる。

そこで、平成五年度と平成六年度の利益額を平均して、平成七年度のあるべき利益額を算出するのが相当と解する。

よって、株式会社ウチダの純売上高から売上原価並びに販売費及び一般管理費(役員報酬を除く。)を控除した額についての平成五年度と平成六年度の平均を計算すると、平成七年のあるべき利益額は一二一八万三一五〇円となり、これと平成七年の現実の利益額(その意味については前に同じ。)である八九万八〇九〇円との差額一一二八万五〇六〇円の七割に当たる七八九万九五四二円が、本件事故と相当因果関係の認められる原告守の逸失利益と認めることができる。原告守のこれを超える逸失利益、他の原告の逸失利益については、これまでに述べたとおり、これを認めるに足りる証拠がない。

二  病室代(原告守)

証拠(甲九、一〇、一七、一八、乙四、証人山口眞人、原告守)によれば、原告守は、日本医科大学付属病院に入院していた期間、個室を使用し、その料金として五三万六〇〇〇円を支出したことが認められる。

原告守は、個室使用の必要性について、日本医科大学付属病院では病室内の携帯電話の使用を禁止しており、取引先と電話連絡を取るため電話の付いた個室を使用する必要があったと主張する。しかし、個室の使用は、元来、看護ないし治療の必要がある場合に肯定すべきであり、原告守が主張するような事情は、高額な個室使用を相当とする特段の事情には該当しないと解する。また、個室使用を相当とする治療上の必要性がないことは原告守が自認するとおりである。

よって、右の個室使用料については本件事故による損害として賠償すべきものに該当しないと解する。

三  慰謝料(原告守)

1  傷害慰謝料

前記一1及び2で認定した本件事故による原告守の傷害の部位・程度、治療経過、通院期間、通院実日数等本件に現れた一切の事情(後記2の事情を含む。)を考慮すると傷害慰謝料としては一三〇万円を相当と認める。

2  後遺障害慰謝料

原告守の治療打ち切り時のめまい、嘔気、息苦しさ、肩の張り等の自覚症状について、これを裏付けるような特段の他覚所見は認められておらず、少なくとも、原告守において自賠法施行令二条別表に該当するような後遺障害が残存したと認められないことは前記一2記載のとおりであるから、同原告に後遺障害慰謝料は認められず、残存しためまい等の自覚症状については傷害慰謝料の算定に当たり若干の考慮をするにとどめる。

3  特別の慰謝料

個室の使用料が認められないことは前記二のとおりである上、このことをひとまずおくとしても、被告が個室使用料の損害賠償を否定する以上、損害が拡大しないうちにその趣旨を原告守に表明すること自体は不当ではなく、内容証明郵便の送付が療養中の原告守に不快な気持ちを抱かせたとしても、これが違法性を帯びるとまではいえないから、これをもって特別に慰謝料を認めることはできない。

四  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告守が本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は九〇万円とするのが相当であると認められる。その余の原告については損害として認められない。

五  結論

よって、原告らの本訴請求は、原告守において損害賠償金合計一〇〇九万九五四二円及びこれに対する本件不法行為の日である平成七年一月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、原告守のその余の請求並びに原告秀子及び原告波江の請求はいずれも理由がない。

(裁判官 松谷佳樹)

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